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007 嘘、そんなこと

last update Terakhir Diperbarui: 2025-11-26 11:00:30

「理解はしてたけど恋〈レン〉ちゃん、本当に誰にも見えないんだね」

 * * *

 今日は実家に戻る日なんだ。よかったら恋ちゃんもついてくるかい?

 そう聞かれた恋は、無言でうなずいたのだった。

「僕以外誰からも認識されない存在。まるでSFだね」

 自分にしか見えない存在。そんな恋と外で話をしていると、独り言を言っているようにしか見えない。

 それはかなり怪しい。そう思い、蓮司〈れんじ〉はスマホを耳に当て、通話をしている風を装い恋に話しかけていた。

 しかし恋は蓮司の顔を見ることなく、ずっとうつむいていた。

 そんな恋に苦笑しながら、蓮司は頭を掻いた。

 * * *

「付き合ってないって、どういうことですか?」

 蓮司から聞かされた、衝撃の事実。

 この時間に来たのは、自分と蓮〈れん〉が幸せに暮らしてる姿を見る為だった。

 付き合って、そしてキスをして。

 恋の中で、蓮に対する想いは暴走寸前にまでなっていた。

 蓮のことが好きすぎて、おかしくなりそうだった。

 そしてきっと、蓮も自分のことを好きな筈だ。

 だから今日、キスしてくれたんだ。

 自分のことを大切にする、嫌がることは絶対にしない。

 そう言ってくれた蓮が、自分からキスしてくれた。

 それはある意味、誓いのようなものだったのだろう、そう思っていた。

 私は蓮くんのことが好きだ。これからもずっと一緒にいるんだ。

 そう信じて疑わなかった。

 それなのに今、二人が別れたことを告げられたのだ。

「ねえ蓮司さん、本当なんですか? 私たち、10年後には付き合ってないんですか?」

 あまりのショックに、恋が涙を浮かべて訴える。

「まあ……恋ちゃんからしたらそうなるよね。付き合い出したばかりなんだし」

 タオルで涙を拭きながら、恋が「嫌だよ、なんでそんなことになってるのよ」とつぶやく。

「恋愛ってね、気持ちだけじゃ続かないものなんだ。例えば今の恋ちゃん、過去の僕のことが好きなんだよね。僕も好きだった。

 でもね、その『好き』がどれくらいなのかは、本人にしか分からない。そしてその度合いが同じなんてことは、決してないんだ」

「どういうことですか」

「僕が花恋〈かれん〉のこと、10好きだとしよう。でも、花恋が僕を好きな度合いは8。そうすると、どうなると思う?」

「……」

「人である以上、その違いはどうしても起こる。環境も違えば考え方も違うからね。そしてそれに気付いた時、10の人は怒ってしまう。自分はこれだけ好きなのに、どうして相手はそうじゃないのかって」

「でもそれは、感覚の問題じゃないんですか? 好きって気持ちは本当だし、その感覚はお互い理解し合えば」

「それが難しいのが人間なんだ。だってみんな、個性があるんだから。考え方が違うんだから」

「そんな……じゃあ想いの度合いが違うから、二人は別れたんですか?」

「いや、今のは一つの例えとして言ったんだ。それくらい恋愛は難しいっていう意味で」

「……別れた理由、聞いてもいいですか」

「理由、ね……」

「私たち、子供の頃から想い合ってきました。それは蓮くんも言ってくれました。

 同じ時間を過ごして、考え方や価値観も共有してきました。勿論蓮司さんが言ったように、人間だから違いはあります。それでも私たちは、その違いも受け入れて一緒になることを選んだんです。そしてきっと、これからもずっと、同じ景色を見ながら生きていくんだって……そう思ってたのに」

「別れるなんて、思ってもみなかった」

「だから知りたいんです。何があったのかを」

「特にないよ」

「え……」

「恋ちゃんが言ったように、当時の僕も同じだった。僕が見たい景色を、花恋も見てくれる。僕も花恋の見てる景色を見てみたい、そう思ってた」

「だったら」

「でも、現実は違ってた。そう思っていたけど、僕たちは全く違う方向を向いていたんだ」

「だからそれが知りたいんです。何がきっかけで」

「恋ちゃん。恋ちゃんが言ってることってね、ドラマやマンガの影響があると思うんだ」

「どういうことですか」

「好き合ってる二人が別れてしまった。きっととんでもないことが起こったに違いない、そんな風に思ってるよね」

「はい、思ってます」

「物語ならそうだと思う。そうでなかったら、お客さんが納得してくれない。僕だって自分の小説で、そういうイベントの時は必死になって考えてた。

 でもね、これは物語じゃない、現実なんだ。僕たちが生きてるこの世界ってのはね、そんなにドラマチックなことばかり起こる訳じゃないんだ」

「現実はそうじゃないってことですか」

「うん。僕らはお互いに、考え方や感じ方の違う他人なんだ。幼馴染だから、普通の人に比べたらそのハードルは低いかもしれない。でもね、突き詰めて言えば、僕たちは違う個なんだ。

 人は相手を思いやる気持ち、尊重する優しさと同時に、思い通りにしたいっていうエゴも持ち合わせているんだ。初めはそれも新鮮に映る。こんな考えもあるんだ、いいなってね。でも付き合いが長くなっていく内に、少しずつそれがストレスになっていく。どうしてこうするんだ、自分に合わせてほしいって」

「……よく分かりません」

「そうだね。ごめんね、どうしても理屈っぽくなっちゃって」

「蓮司さんには別れた理由が分からない、そういうことですか」

「分からないとまでは言わないよ。考え方や価値観の違い、小さなすれ違いが積もり積もって、少しずつ僕らの心は離れていった。特にイベントがあった訳じゃない。いつの間にか連絡を取り合う回数も減っていって、別れる方向に向かっていったんだ」

「そんな……」

「自然消滅って言い方が、一番合ってると思う」

「嫌、嫌だよ……ずっと蓮くんと一緒にいたいのに……理由がある訳でもなく、いつの間にかって……そんなのないよ……」

 恋の大きな瞳から、また涙がこぼれ落ちていく。

 そんな恋を穏やかに見つめながら、蓮司は「ありがとう。それから……ごめんね」そう言って微笑むのだった。

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